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zoom RSS 戯曲「痞え(つかえ)」 甲斐菜摘 二松学舎大学

<<   作成日時 : 2015/02/01 19:25   >>

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「痞え(つかえ)」 

甲斐菜摘
二松学舎大学211B2021



女 ここだけ、どうしても落ちない。
男 どうした?
女 絵の具がここに。ほら。
男 大分派手に付けたね。
女 わざとじゃないの。
男 よくないね。
女 嫌な色してる。
男 それで絵を描いたの?
女 違う。あれ見て。
男 なるほど。紫か。
女 そう見えるの?
男 紫じゃないの?
女 藍色。
男 紫に見えるよ。
女 藍色なの。紫じゃない。
男 君にとっては藍色、僕にとっては紫。
女 頑固。
男 そうじゃない。
女 じゃあどうなの?
男 君の服に付いた部分は今黒いだろ。
女 うん。
男 でも君は藍色を使ったんだろう?
女 うん。
男 それが今は黒い。
女 でも紫じゃない。
男 藍色でもないよ。
女 うん。
男 あの壁だって、よく見たら完全な白じゃない。
女 もういいわよ。分かった。
男 そう。
女 紅茶淹れるね。
男 悪いね。
女 砂糖はないけど。
男 いらないよ。
女 ちょっと待ってて。
男 うん。

    女が紅茶をテーブルに持ってくる。

男 どうも。
女 熱いよ。
男 君は確か猫舌だったね。
女 そう。いつも舌、火傷する。
男 舌を火傷すると、味が分からなくなるだろう。
女 そうなのかな。
男 違うの?
女 分からない。
男 そう。
女 私、舌が鈍いの。
男 舌が鈍い?
女 そう。鈍い。
男 それはどういう意味?
女 そのままの意味。
男 ほう。
女 高い肉と安い肉の味の違いが、全く分からないし。
男 なるほど、食費が安く済むね。
女 そう、本当に。
男 それは貧乏舌ってやつだね。
女 貧乏舌。
男 貧乏舌。
女 嫌な響き。
男 不便ではないよ。
女 便利でもないけど。
男 紅茶少し冷めてきたと思うよ。
女 まだ湯気が出てる。
男 これ、綺麗だね。
女 いつもこんな風になるの。
男 雨みたいだ。
女 雨より優しく見えない?
男 優しい?
女 優しいっていうより、何だろう。
男 うん。
女 ゆっくりで、いいなって。
男 そうだ。露を描いたら?
女 難しいよ。見てるだけでいい。
男 描いてほしいな。
女 私が描くと変わっちゃうから。
男 それでいいじゃない。
女 そうだけど。
男 君は人物を描くよりも、こういうのを描く方が合ってる気がするな。
女 私は見てるのが好きなの。
男 よく見てるから描けるんじゃない?
女 でも絵には出来ない。
男 そっか。
女 うん。人物を描くのだって下手だけど。
男 なんで人を描くの?
女 何でかな。特徴があるから?
男 描きやすいってこと?
女 多分。ずっと人しか描いてないし。
男 でも君が描く絵ってさ、悪いけど人っぽくないな。人間味がないっていうのかな。
女 それは、良くないってこと?
男 なんていうのかな。本当に、絵そのものっていうのかな。だから凄く綺麗に見えるんだけどさ。
女 人間味がない人間って、空っぽでしょ。
男 そんな人間いないでしょ。
女 そうかな。
男 そうじゃない?
女 どうだろう。
男 空っぽって、どんな?
女 なんだろう。綺麗で美しくて、でも何もない。
男 あの絵みたいに。
女 うん。
男 あれは誰なの?
女 誰でもない。
男 君の想像した人物なんだね。
女 それしか書けないの。
男 生身の人間をモデルにしようと思わないの?
女 思わない。
男 そうか。
女 モデルになってくれるような友達もいないから。
男 確かにね。
女 やっと紅茶飲めるよ。
男 もう随分冷めてるよ。美味しくない。
女 飲めればいいの。
男 味覚が鈍いからか。
女 あのさ、どうしていつも家へ来るの?
男 いや、なんか落ち着くんだよ。
女 ここが?
男 うん。絵の具の匂いがすごいけど。
女 そんなに?
男 分からないの?
女 もう鼻が慣れちゃったんだよ。
男 そっか。中々ないよ。絵の具くさい家。
女 それでも落ち着く?
男 落ち着く。
女 全然綺麗じゃないけど、うち。
男 綺麗とか汚いとかじゃないな、ここは。
女 どういうこと?
男 なんだろうな。本当、君の家って感じ。
女 私の家だよ。
男 はは。確かにそうだね。
女 うん。他の人は?
男 他の人?
女 他の人の家。どんな感じなの?
男 さあ。絵の具の匂いはしてないはずだよ。
女 もっと綺麗なんだろうね。こんなに汚くないんだろうね。
男 花なんかが置いてあるんじゃない?
女 花ね。家のなかに花は、置きたくないな。
男 そうなの?
女 可哀想でしょ。
男 花が?
女 そう。花が生きる場所じゃないよ。
男 ははは。
女 家のなかに、花置いてる?
男 置いてないよ。そんな柄じゃない。
女 そう。
男 でもサボテンは欲しいな。
女 どうして?
男 なんとなく。
女 サボテンに名前付けてる人いるよね。
男 そうなの?
女 前テレビで観たけど、家に帰ってサボテンに話しかけるんだって。名前呼んで。
男 犬みたいだね。
女 一人だと、寂しいんだって。
男 へえ。寂しいからサボテン置くんだ。
女 よく分からないよね。
男 分からないね。もっと寂しくなるよ。
女 あなたは寂しいからサボテンが欲しいっていう訳じゃないの?
男 違うよ。ただ本当になんとなく。
女 そっか。
男 うん。それに寂しい時はここに来るし。
女 もう来ないでほしいな。
男 君は寂しくならないからね。
女 うん。
男 でも、僕が来なくなったらきっと君は寂しいよ。
女 どうして。
男 そうなんだよ。
女 寂しくないよ。
男 あのさ、あの絵、君みたいだよ。
女 え?
男 君みたいだ。
女 あんなに綺麗じゃないよ、私。
男 そうじゃない。
女 空っぽってこと?
男 違う。
女 じゃあ何?
男 寂しい絵だ。
女 寂しい絵。
男 綺麗な絵だけど、寂しいんだよ。特に目が。君の目そっくりだ。
女 あれは私じゃない。
男 君にとってはね。僕にとっては君に見えるってだけだよ。
女 何が言いたいの?
男 別に何が言いたいってわけでもないよ。
女 何か言いたいんでしょ。
男 そうかもね。
女 寂しい女だって言いたいんでしょう。
男 ははは。
女 馬鹿にしないで。
男 紅茶淹れてくれる?
女 私の紅茶飲んで。
男 冷めきってるから熱いのが飲みたいんだ。
女 冷めきってる。私って、冷めてる?
男 どうしたの?
女 私って冷めてるのかな。どうなのかな。
男 君はね、冷めてはないよ。
女 冷めてはないってどういうこと?
男 君は冷めてない。ただ、冷めて見えるだろうね。他の人には。
女 そう。
男 君は優しいよ。
女 私は優しくない。
男 見えないからね。そういう風に。ただ、見えなくていいんだよ。そういうのは。
女 あなたの言葉は時々難しい。
男 難しいことは何も言ってないよ。
女 私にとっては難しい。
男 難しく考えるから。
女 本当は何も考えたくないの。
男 そんな訳にもいかないでしょ。
女 だから苦しい。
男 苦しい?
女 何かがずっと痞えてる。奧のほうに。でもそれが何なのか分からない。だから苦しい。
男 それでいいんだよ。
女 よくない。いつもいつも、ちゃんと出来ない。ちゃんと言えない。何もうまくできない。
男 それが苦しい?
女 苦しい。どうすればいいのか分からなくなる。
男 それが本当だよ。君だよ。
女 違う。違うの。
男 違うって思ってるから苦しい。君はそれでいいんだよ。そのままでいい。
女 どうしてあなたは何もかもを分かっているような言い方をするの?
男 僕は何も分かってないよ。
女 ごめんね。こんな風になって。
男 謝ることじゃない。
女 皆はこんな風になる?
男 皆は気持ちを無視して生きてるからね。
女 そんなこと出来る人いないでしょう。
男 違うな。他人の目に怯えてるんだよ。
女 どういうこと?
男 作られてるんだ。皆。他人の目に。
女 そういう人は、こんな風にならないの?
男 そういう風にならないようにしてる。
女 どうして。
男 きっと怖いからだよ。
女 怖い?
男 そう。
女 私も怖いよ。
男 でも君はそれをちゃんと分かってる。
女 分かってない。でも全部が曖昧で、それも怖いの。
男 うん。
女 あなたは?怖い?
男 怖い。
女 何が怖い?
男 僕は、平気な顔をして生きてる自分が怖い。君と会うと余計にそう感じる。
女 じゃあ私と会うと、怖いの?
男 うん。少しね。
女 そう。
男 君と話してる時間は、きっと本当だとおもう。
女 どういうこと?
男 嘘か本当か、で言ったら本当ってこと。
女 本当じゃなきゃ、意味がないよ。
男 本当が怖い人たちがたくさんいるんだよ。
女 みんな嘘をつくの?
男 見ないふりをしてるんだよ。
女 私だって見ないふりをしてここにずっとここに籠って絵に逃げてるよ。
男 ははは。そうだね。でも君には見えてる。
女 分からない。
男 何かが痞えて苦しいときに、君は絵を描いてればいい。
女 うん。
男 時々君がうらやましいよ。
女 私が?何で。
男 君を見てると自分を空っぽに思うんだ。
女 あなたは空っぽじゃない。全然。
男 ははは。
女 私に、色々なことを教えてくれるよ。
男 それを全部真に受けたらいけないよ。
女 どうして。
男 それぞれなんだ。考えは。
女 でも私はあなたしかいないから。
男 でも僕と君は違う。そうでしょ?
女 うん。
男 だから。あくまで君は君なんだよ。
女 このままでいい?
男 うん。
女 なんか、少しね。この辺が、すっとした。

  

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