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zoom RSS 戯曲「世界一おいしいもの」 佐藤友佳 二松学舎大学

<<   作成日時 : 2015/01/31 22:04   >>

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「世界一おいしいもの」

佐藤友佳
二松学舎大学 212A1259



    男と女が、メニュー表を見ながら、白いテーブルに向かい合って座っている。

男 たくさんあるね。
女 ね。
男 どれにしよう。
女 どうしよう。
男 何が食べたい?
女 んー、なんでも。
男 なんでも?
女 なんでもいい。
男 なんでもあるよ。
女 なんでもいいの。
男 ええ……。
女 今ならなんでも食べられそう。
男 困るよ。
女 だってなんでもいいんだもん。
男 なんでもって、何かあるだろ。
女 あんたは。
男 え。
女 あんたは何が食べたい?
男 俺はいいよ。
女 だめ。何か言って。
男 うーん。
女 なんでもあるよ。
男 なんでもあるな。
女 なんでも言って。
男 でもなあ。
女 なあに。
男 なんでもあるから難しいんだ。
女 じゃあなんでもいいの?
男 それはだめだ。
女 私はなんでもいいの。
男 分かってる。
女 どうするの。
男 ここにはなんでもあるし。
女 そう。
男 君はなんでもいいって言うし。
女 そうよ。
男 どうしよう。
女 お腹空いた。
男 俺も。
女 早く決めて。
男 本当になんでもいいの。
女 なんでもいい。早く。
男 本当になんでも。
女 なんでもよ。
男 まずいもの頼んでも怒らない?
女 それはいや。
男 えっ。
女 なによ。
男 なんでもって言ったじゃん。
女 言った。
男 言ったよね。
女 おいしいものならなんでもいい。
男 おいしいものか。
女 そう。
男 おいしいもの。
女 おいしいものよ。
男 じゃあ。
女 うん。
男 世界一おいしいものを食べよう。
女 世界一おいしいもの?
男 そう。
女 ……。
男 この世で一番おいしいものを。
女 ……。
男 いや?
女 いやじゃないけど。まずかったらどうするの?
男 この世で一番おいしいものなんだから、おいしいに決まってるだろ。
女 そうかな。
男 そうだよ。おーい、すみません。

    速やかにAが歩いてくる。

A いらっしゃいませ。ご注文をお伺いいたします。
男 この世でいちばんおいしいものをください。
A はい、かしこまりました。
男 ふたつね。
A 少々お待ちくださいませ。

    Aは退場。

男 なんだろうね。
女 え?
男 世界一おいしいものって。
女 さあ。
男 何が出てくるのかな。
女 世界一おいしいものが出てくるよ。
男 楽しみだね。
女 うん。

    皿を二つ持ったAが歩いてくる。

A お待たせしました。A5ランク牛フィレ肉のポワレ〜季節の温野菜とオーロラソースを添えて〜アンダルシア産オレンジの香りを纏ったブールパチューです。

    Aは皿を置き、去る。男と女はまじまじと皿を眺める。

男 これがこの世で一番おいしいもの。
女 そう。これが。
男 きれいだなあ。
女 ……。
男 いい匂いがする。
女 ……。
男 (ナイフとフォークを持って)はああ。いただきます。
女 待って。
男 え。
女 待ってって。
男 なに。
女 食べないで。
男 どうしたんだよ。
女 ……。
男 おい。
女 私、嫌いなの。
男 そうなの。
女 うん。だめなの。
男 そうか。
女 ごめんね。
男 (ナイフとフォークを置いて)じゃあ、これはこの世で一番おいしいものじゃないね。おーい、すみません。

   速やかにAが歩いてくる。

A お呼びでしょうか。
男 この世で一番おいしいものをください。
女 この世で一番おいしいものをね。
A かしこまりました。少々お待ちくださいませ。

   Aは退場。

女 ねえ。
男 ん。
女 あんたは何が好きなの。
男 俺? 俺はね。俺はラーメンが好き。
女 ラーメン?
男 ラーメン。
女 どのラーメン?
男 え。
女 どういうラーメンが好きなの。
男 んー、味噌味で、麺がちぢれてるやつ。
女 麺は硬い方が好き?
男 うん。
女 具は。
男 もやしとコーンと、チャーシュー。分厚いの。
女 どうやって食べるの。
男 どうやって?
女 食べてみて。
男 (ジェスチャーで)えっと、こう……まずスープを一口飲む。
女 それで?
男 それで、真ん中の方から麺をすくって、一気に、ズズッ。
女 おいしそう。
男 野菜と一緒に、ズズッ。
女 ふふっ。
男 チャーシューをかじって、ズズッ。
女 ふふふっ。

    椀を二つ持ったAが歩いてくる。

A (味噌汁の椀を置きながら)お待たせいたしました。
女 これがこの世で一番おいしいもの。
男 ちょっと。
A はい。
男 これはなんですか。
A お袋の味でございます。
男 母さんの味がするんですか。
A お袋の味でございます。
男 そんなわけないでしょう。
A ですが、こちらはお袋の味でございます。
男 母さんはもういないんだよ。
女 あんた。
男 下げてくれ。こんなのじゃなくて、この世で一番おいしいものを出してよ。
A かしこまりました。少々お待ちくださいませ。

   Aは退場。

男 腹減ったな。
女 うん。
男 ああ。なんでもいいから食べたい。
女 ラーメン食べに行く?
男 いやだよ。
女 なんで。
男 これから、この世で一番おいしいものを食べるんだから。

    A、B、C、Cが歩いてくる。

A お待たせいたしました。のろけ話でございます。
男 なんだって。
A お腹いっぱい召し上がってください。
B はい。私は、五年前に成人式で初恋の彼女と久しぶりに再会しました。カラオケとボウリングで盛り上がり、いや、燃え上がり、勢いのままに告白したら即OKをいただきました。彼女は最高です。笑顔が可愛くて、髪はさらさらで、すらっと細いのに胸が大きくて、白いワンピースがよく似合います。料理上手で、この前は肉じゃがを作ってもらいました。おいしいねと言ったら、毎日作ってあげたいと笑ってくれたので、抱きしめながらプロポーズしました。幸せだとつぶやいて、濃厚なキスで彼女は応えてくれました。明日、結婚します。女神のように美しく、天使のように愛らしい彼女を、心から愛しています。
C お待たせいたしました。他人の不幸でございます。
女 なんですって。
C 蜜の味をご堪能くださいませ。
D はい。私は孤児院出身。養子にもらわれた家で幼い頃から虐待をされ、小中高では同級生からいじめを受けました。三年連続でインフルエンザにかかり受験に行けず、三浪しました。大学一年のときに初めてできた彼女に梅毒をうつされ、それ以来EDです。養父は四千万の借金を抱えていますが、私は安月給のブラック企業で馬車馬のように働いております。理不尽な労働条件に物申したところ、ハゲ社長とデブ部長にオカマ掘られ、痔が悪化しました。昨日はコンビニで万引き犯に間違えられ、半日後に解放されたら帰り道で野犬に襲われ、やっとの思いで自宅に辿り着いたら家が全焼していました。
女 (笑いながら)かわいそう。
男 (笑いながら)ひどいな。
女 がんばってくださいね。
男 人生色々ですよ。
B ありがとうございます。
D ありがとうございます。
男 ああ。もういいよ。
女 うん。もういい。
B ごゆっくりどうぞ。
C ごゆっくりどうぞ。
D ごゆっくりどうぞ。

    B、C、Dは退場。

A ご満足いただけましたでしょうか。
男 はは。でも、腹が減ったよ。
女 そう。ぺこぺこ。
A ラストオーダーの時間でございます。追加のご注文があれば、お伺いいたします。
男 そうだなあ。
女 ねえ、あんた。
A お客様のご要望にお応えして、なんでもご提供させていただきます。
男 何がいい。
女 私は……。
男 ああ、なんでもいいんだっけ。
女 ……。
男 すみません。
A はい。
男 この世で一番おいしいものをください。
A かしこまりました。少々お待ちくださいませ。

   Aは退場。

男 はーあ。お腹と背中がくっつきそう。
女 私なんか、お腹が鳴りっぱなし。
男 ははは。
女 ねえ、あんた、幸せ?
男 なんだよ突然。
女 幸せなの。
男 うーん。まだだよ。まだ不幸なまんま。
女 なんで。
男 だって。
女 うん。
男 まだこの世で一番おいしいものを食べて
ない。
女 そう。
男 君は。
女 え。
男 君はどうなの。幸せ?
女 どうかな。
男 なんだよ。
女 分かんない。
男 ちゃんと答えて。
女 幸せなんじゃないかな。すごくお腹が空いてるから。

   瓶を持ったAが歩いてくる。

A お待たせいたしました。この世で一番おいしいものでございます。
男 ありがとう。
女 ねえ、これは何。
A 恐らくお客様が召し上がったことのないものです。
男 へえ。
女 なんなの、これ。
男 だから、この世で一番おいしいものだって。
女 ねえ、なんなの。
男 この世で一番おいしいんですよね。
A はい。
女 なんなの。
A 死ぬほどおいしいです。
男 ありがたくいただきますね。
女 本当に、何。なんなの。これ。
A 皿までお召し上がりいただけます。

幕。



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