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zoom RSS 短編 「こんな夢を見た」  坂下尚香 二松学舎大学

<<   作成日時 : 2014/10/10 01:23   >>

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こんな夢を見た

坂下尚香
二松学舎大学 213A1089


 こんな夢を見た。
 温かい水の中は、薄暗いけれどハッキリとものが見えた。ちょうど青と紫の真ん中くらいの色をした暗やみが、わたしをつつんでいた。自分の手足がなんだかぼんやりと光っているようだった。きっと夜なのだ、とわたしは思った。水の中で口をぱくぱく動かすと、ぽこりと泡が浮かんだ。その泡はぐにゃりと形を変えて魚の形になった。魚はわたしのまわりを泳いで、やがてどこかへ行ってしまった。わたしは何度も口をぱくぱくやった。小さな魚、大きな魚が次々生まれた。水の中でも、ふしぎなことに苦しくなかった。

 体が揺れた。急に水が潮の流れのように渦巻いたのだ。わたしの体は押し流されて、立っていられなかった。わたしは体をまるめて渦にその体を預けた。くるくると回った。さっきつくった魚たちが、何匹かくるくると流されるのを見た。そのうちに楽しくなってきた。くるくると回転しながら口笛を吹いた。すると今度は小さく細長いうなぎのような魚が生まれた。渦はいつのまにか勢いが弱くなっていた。温かい水はゆらゆらとわたしとうなぎを運んだ。水はまるでわたしをなでるようだった。うなぎがわたしの喉元にそっとくっついた。触れようとするとうなぎはするりと逃げ、また肌にくっつこうとした。器用に私の手を逃れるのに、うなぎはずっとわたしの体を離れない。わたしは目を閉じた。眠たくはないのに、瞼が勝手に下がってくるのだった。

 上の方から、かすかな声が聞こえた。こそりこそりと誰かの内緒話のような。その音をきいて、わたしは胸がとくりというのを感じた。

 体がぐいと引っぱられた。それで目を開けると、腰のところに細い紐が巻きついていた。紐は上の方へ長く長く伸びていた。暗やみの中で紐はぽうっと白く輝いていた。うなぎはいなくなっていた。その紐は柔らかく、白が美しかった。また体がぐいと引っぱられた。わたしの体はだんだんと上の方へ上がっていく。少しずつ少しずつ。やさしい力で紐は手繰られているようだった。そのうちに、泳いでみようと思った。真っ直ぐに伸びている紐の先に向かって体を動かしてみる。ふわりと体は上へいく。さっきよりもぐっと速いスピードになった。紐は同じように優しくわたしの動きを助けてくれた。まわりの暗やみは上に行くにつれて薄紫色に変わっていった。だんだんと明るくなる。

 ぽっかりと小さな島が浮かんでいた。水の中に島はあって、下から島の裏側が見えた。蔦がたくさん出ていた。そこには、魚たちが蔦に隠れるようにしていた。島に辿り着くと老人が紐を手繰っていた。老人はわたしが島の上に上がってきたのに気がついて手を止めた。老人はにこりと微笑んだ。やあ来たね、と彼は言った。そして傍に来てわたしの腰にくくりつけられていた紐を解いてくれた。紐は解かれるとするんと縮んでうなぎになった。お行き、と老人が言うとうなぎは島の下に泳いで消えた。

 老人はわたしを座らせると桃をくれた。かじると甘い果汁があふれた。ありがとう、と言おうとした。しかし、ぐ、と喉に何かがつかえて言葉にならなかった。老人は指さした。見上げるとまん丸い月があった。きれいだろうと老人は言った。うん、と返事したかったのにまた声を出せなかった。無言でうなずいた。老人は、あの月に向かっていきなさいと言った。なぜだすか、あの月にいったらどうするのですか、と思った。けれどそれらは、全部言葉にならなかった。どうして。わたしは苛立って泣きたくなった。首を横にブンブンと振り、ドシンと島の地面を蹴った。

 老人はまたにこりと微笑った。
「あ、今。聞こえた?」
「うん。蹴ったね。」
 声がした。さっきの、内緒話の声だった。それは男の声と女の声だった。
「いつかな。そろそろかな。」
「そうね。はやく出ておいで。」

 わたしは胸がとくんとなるのを感じた。急に涙が頬を伝った。声は何かくすぐったく、胸がきゅうとした。
 喉が渇いた。突然の猛烈な渇き。水の中にいるのに、たまらなくなった。老人がもう一度指さした。わたしはうなずいて、スイと泳ぎだした。月はきれいなまん丸で、明るく、光の道筋をつくっていた。



※作品は講義「小説作法実践」で課題に沿って書かれた400字5枚の短編です。
文章の美しい素晴らしい作品です。受講生は大いに参考にしてください。
「描写する」「心の呟きを書くな」のモデルです。

※読みやすいように私・山崎が改行を施しています。



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